2007年11月2日金曜日

やや苦くてイタイ感じ

これってわざわざ日経ビジネスの記事としてパブリックにするような内容かよと思いながらも、ついつい読み進んでしまい、細かいエピソードに突っ込みいれたりで、読みきってしまう。
出始めのダウンタウンを横山やすしが「チンピラの与太話」と評したように、ただのおっさんの同窓会の会話に過ぎないとも思えたり、でも「そんなレベルのコンテンツ」だからこそ、実感を持って読めるんだなぁなんて思ったりもして。
なんだか、脳みその普段使わない領域に隠蔽して蓋してあるところを引っかかれる感じ。
いわゆる「あの頃は」の頃の、青臭くても尖っていたけど稚拙で幼稚な思想が喚起され、ものすごく恥ずかしくなり、きっと試験の夢にうなされるに違いない気持ちになる。
ブログを残しておくことはそんな「あの頃」のひとつを残していく行為だったりするので、良いんだか悪いんだか。
うーん、ずるずると青臭いオバカな思いが立ち上がってきますね。
なんだかこの人たちと価値判断原理がどこかで共有されているのだな。
それがものすごく、イタイ、アタタタタ、という気持ちになる
とりあえず断ち切って、文中の微分記号と積分の混同のくだりは秀逸。
  #正確には本文でないけど
話をしている本人たちはもとより、記者までがブンケイニンゲンで構成されているためのオチなのかと思うけど、笑って許せる感じ。
ちなみに最後のオチは、びみょーにおいらには笑えない(笑)

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「息子」と「宴会芸」と「君が代」と
~お父さんは、数学で1点を取りました
2007年11月2日 金曜日

岡 この間、息子から就職の相談を受けたの。でも、自分がどうだったかというとさ、結局、成り行きでしかないじゃない?
小田嶋 そうだね。
岡 だから、真剣に進路ということを相談された時に、返す言葉なんかないんだよ。時代としてないのか、俺がないのか分からないんだけど。
小田嶋 岡は、(就職は)大人たちとのゲームになるから、勝った方がいいだろう、というふうにして取り組んできたわけだろう。これまでの話からすると。
岡 その通りなんだけど、僕の息子のように、ゲーム感覚なんて、そんなことにあまり興味がないやつら――そういう健全な青年たちも世の中にはたくさんいて、勝ち負けって何? みたいなことを言われると、もう何もない。
小田嶋 そうだよね。
親の自分とただの自分と
岡 僕らの前の世代というのは、「自分」という文脈というのかな、例えば戦前だったら「国」になるんだろうけど、「家族」でもいいな。そう、一家とか家族とか、そういうもののために、こういうように生きる、そして自分もその中でこそ幸せだ、みたいな大きな文脈が自分以外のところにあって、そこで今何をすべきかという話が作れたんだけど、俺たちの世代になってからは、もう、そういうものはなくなったでしょ。
小田嶋 なかったね。
岡 そういうものがないと、受験にしても就職にしても、結局、そのゲームが面白いから勝ってやる、ということ以外に、僕の場合は自分を突き動かすものがなかったと思う。でも、少なくとも、僕はそれがあったから面白かった。だから、それ以外にどうやってみんな頑張るんだろうと。これを今日ね、話そうと思っていたんだよ。
小田嶋 ああ、そうね。でも、岡のゲーム感覚は他人に適用できる話じゃないよね。岡 そう思うよ。息子に、お前そう感じないのか? と聞くことも意味がないぐらい違う人間なわけだし、そもそも息子はそんなふうにゲーム感覚で生きていない。
小田嶋 対息子ということについて言うとね、俺はひとりの人間として思うことと、親という立場が言わせる発言ってあるでしょ。それがいつも、常に矛盾しているわけよ。
岡 だろう?
小田嶋 そんなのやるべきことじゃねえよとか、知ったこっちゃないさ、っていうのが個人的にはあるわけだけど、親がそれ言っちゃっていいのかなという思いはある。
岡 それに関して言えばね、俺はずっと一個人として接しているわけ。だって両方言うと、子供、混乱しちゃわない?
小田嶋 混乱してるけどね(笑)。
岡 そうだろう。
小田嶋 「そういう宿題はね、無視すればいいと思うけど、でも無視すると厄介なことになると思うよ」とか、そういう話をしてる(笑)。
嫁さんにも、ごめんなさい
岡 でもさ、母親っていうのは、当然のように親としての発言をせざるを得ないわけだよ。そうすると、お父さんは「まあお母さんが言うことの方に一理あるんだけどさ」と、及び腰になっちゃう。卑怯者ということなんだけど(笑)。
小田嶋 うちもやっぱり、最終的には嫁さんがすごい建て前論を言っているよ。絵に描いたようなことを。で、俺が「いや、でも、お母さんはああ言うけどね」なんて、子供にとっての空気穴みたいなことになるでしょう。そうすると、嫁さんはすごい怒るわけ。
岡 ま、それは怒るよ。
小田嶋 私がせっかくここまで言ったことの、その前提をどうする気だ、絨緞ごとひっぱってテーブルをずらすみたいなことを言うな、って(笑)。
岡 だけど父親と母親が違うことを言うと、子供としても混乱するんじゃないかな、とは思う。でも、仕方ないよ。他に手法はない。実際、息子は、高校を中退してしまったたからね(笑)。学校を辞めた時も、あれっ、お父さんは会社を辞めて、離婚もしたよね、何で僕が高校辞めたらいけないの? ということになって……。
―― 至極もっともなことを。
岡 それでもう、何か、ぐうの音も出なかった(笑)。だから、それがいい教育法かどうか分からないけど、でも、自分が建前を言うっていうのはかなり変なことじゃないかって。
小田嶋 俺の中では、まっとうな人間に育ってほしいという前提からくるアドバイスの仕方と、せっかくコースに乗っているんだから道を外れないでくれよという時のアドバイスの仕方は、結構ずれてくるわけよ。
岡 お前はそうだろうな。
小田嶋 だからそこのところで、結局、俺の中の問題だよね。「まあ、コースなんか外れてもいいから、お前の好きなように生きろ」と、そこまで言う度胸があるのか。「あのさ、結局人間なんてくだらんものだから、コースに乗っとくもんだぞ」というふうに言うのか(笑)。
適応のため努力は短いほどいい
岡 小田嶋の場合、小田嶋の本音というのは、非常に危険なわけだ。だって、どうせ死ぬんだからさ、に近いような(笑)。俺の場合の本音というのは、そんなにデンジャラスじゃないんだよ。いいんだよ、ルールなんて。取りあえず勝てばいいんだから、みたいなことだから。
―― 日々の努力なんていらないよ、と。
岡 でも、絶対に90点は取れよ、というようなことでしょう(笑)。そのために必要なのは3日間死ぬ気での詰め込みだ、みたいなことなわけだよね。だけど小田嶋の本当に思っていることというのは、僕よりも反社会的だし、アナーキーだから。
小田嶋 反社会的ではないけどね。
岡 反社会的じゃないけど、でも社会的じゃないよね(笑)。俺のは社会的なんだよ。だって最終的には、激しく適応しなければつまらないことになるぞ、ということだから。
小田嶋 でもね、俺、子供には言えないよ。学歴なんか価値はないけど頑張れとか、そんなこと言えないでしょう。
岡 それは言えないな(笑)。で、実際には小田嶋はどうしてるの?
小田嶋 頑張れって言う以上は、価値があると言わなきゃいけないしなあ。
岡 でもね、子供に頑張れと言っても、おやじは別にそんなこと本気で思ってないってことは、やっぱり感じるものがあると思うんだよ、彼ら側にも。
小田嶋 そうそう、だから逃げ場に使ってるね、俺のことを。おふくろに何か言われた時に、でもパパはこう言ってたよ、みたいな。それで結構、えっ、俺、そんなこと言ったっけ? みたいになっちゃうんだけど。ほら、高校時代の数学なんかは全部で9点ぐらいしか取ってないよ、という話があるじゃない(笑)。
岡 それ言ったのか? 子供に。
小田嶋 うん、ふっと何かの時に。
岡 それは息子は覚えてるな、絶対。
―― その「全部で9点」の全部、って?
小田嶋 テストは合計9枚で9点だから、平均1点かな、なーんて(笑)。ばかな話でしょう。それは自分的には単にばかだった、という話なんだけど、子供にとっては、それでも何とかなるもんだという教訓話、というか、生き方の指針として受け止めていたりする(笑)。
岡 生き方の指針ね。
小田嶋 パパは世界史とか、ほとんど授業出てないぞ、みたいな話っていうのも、それでいいんだぞ、というふうに解釈して聞いてるわけだよ。そうじゃないんだけどね。
岡 かみさんは嫌がるだろうな。
小田嶋 そういう話やめて、って言われて。確かに俺、うかつにそういう話してたよな、と思って。
※編集部注:第4回『「受験」と「恋愛」と「デニーズ」と』で小田嶋さんは「数学で零点を9枚」と仰っていましたが、実際には「1点を9枚」だったご様子です。お詫びして訂正しますが、第4回はそのまま放っておこうと思います
岡 でもある種、そういうめちゃくちゃで本当の話は、やっぱり何かが恵まれていないとできないわけでさ。
―― それはその通りですね。
岡 ただ普通に、数学1点とか、世界史の授業に出ないとかだったら、しゃれにならないでしょう。我々の時は時代の空気も違っていたしね。だって今だったら、お前、卒業できないよ、9枚で9点だと。3年かかっても無理でしょう。
小田嶋 そう、当時、試験で成績はつけなかった。
岡 補習みたいなのを受けていたんだっけ?
小田嶋 あのね、最後に俺、ウシオ先生に呼ばれてね、「ミワ先生も苦慮しておられるから」と、説得されて。幸い3学期のテスト範囲は「確率」だ。「確率はそれ以前の勉強の流れとは無縁で、独自に勉強すれば点が取れるらしいじゃないか。何とかしてここで点を取れ、何点とはいわないから取ってくれ」と、教師に懇願されて(笑)。
理由なき反抗、に見えただろうなあ
岡 そもそも数学の試験の時、お前は何をしてたの?
小田嶋 だから何も書かないでいた。俺、分からないからさ、白紙で出していたんだけど、それを先生には反抗と見られていたの。先生としてはサービス問題も出しているわけだよね、頭の方に。でも、俺、もう最初からアタマがかーっとなって、2点3点すら取りにいけないわけだよ。
―― 2点、3点すら。
小田嶋 もしかして、もっと真剣に考えれば5点や6点は取れたかもしれないんだけど、見た瞬間に、だめだこれ、っていう感じで、もう完全にスタートラインから外れちゃって。まあゴルフで言う「イップス」だよね。完全に対応不能になる。後は静かに寝て、名前だけ書いて白紙で出してたのよ。
岡 でも50分ぐらいあったでしょう、試験時間って。
小田嶋 だから寝てたんだよ。
岡 また席順っていうのが、あいうえお順になってきて、岡は一番後ろなわけ。で、小田嶋は先生の目の前になっていた(笑)。
小田嶋 3年間ずっと。
岡 僕は座高も高いから、いろいろなことが見渡せた。だって俺、高校時代の成績、平均4.2だもん、5段階評価で。実際の実力は2.4くらいだったけど、テストは強かった。
小田嶋 ちなみにオレは3.0。だからね、北大もまるで無理じゃなかったね、岡は(第4回『「受験」と「恋愛」と「デニーズ」と』参照)。
―― たとえ「おばさん」を「アリ」としても。
岡 いや、無理だった。
小田嶋 「おばさん」が当たっていたら、案外、間違って入った可能性もあるのよ、岡は。
岡 でもさ、自分でも分かるんだけど、僕の場合は試験の時だけごまかしているだけなんだよ。その時その時での好成績。
小田嶋 まあ、岡本人は北大に少し行く気で、でも、受かんなくてよかったよね、あの時。
9点、取れるものなら取ってみろ、と
岡 よかったのかな、あれで(笑)。受かっていたら、その時点で人生、かなり変わってたよ。
小田嶋 俺は北大を受けた時、数学の微分のこのマークね。
―― ああ、微分記号ですね(※)。
小田嶋 俺、初めて見たんですよ、あれ(笑)。試験から帰った後に「こういう、ほら、Sの長いやつみたいなのあったじゃない?」と、仲間内で話したら「お前、本当にそれ知らないの??」と言われて。
―― そうですよ、だって小石川高校なんでしょう?
小田嶋 もう数学は授業も出ていなかったしね。
岡 だてに9点じゃないんですよ。
小田嶋 うん、だてに9点じゃない。
岡 小石川って理科系色が強いから、理数系の勉強がめちゃくちゃ難しいんですよ。それでみんな「大学への数学」とかやってて。文系でも。

※編集部注:冷静な読者の方から「それは積分記号」とご指摘をいただきました。その通りです。「だてに9点ではない」ことがお分かりいただけたかと思います。というのは冗談ですが、「清野さん、あなたまで毒されてどうするんですか」とのお言葉も頂戴しました。しかしこの責任はもちろん、この間違いをまんまと見逃しておりました編集部にあります。ご指摘にお詫びと、御礼を申し上げます。

―― うわー嫌ですねえ。
岡 もうね、苦しかったよ、あれは。だからテストも、それほどやさしい問題は出ない。先生も気を使って簡単なのも出してたと小田嶋は言ってたけど、それだって基礎ができてなければ解けない。いつも0点になる恐怖って確かにあったね。
小田嶋 高校1年の時に初めて受けた試験が「じゃあ君たちもまあ、入ったばかりだから、中学の復習を出します」って教師が言う問題で、俺、30点だったんです。すんげえ難しいな、これじゃあ平均50点いってないだろうな、と思ったら「100点発表します」って、30人ぐらい名前がずらずらっと。
―― 本当に嫌な学校ですねえ。
小田嶋 俺はそれで、これはだめだ、と気持ち的に終わっちゃったんです。
岡 数学に関して。
小田嶋 数学に関してというか、学問全般に関して(笑)。高校生の虚栄心としては、一生懸命頑張って真ん中辺にいるというよりは、一切投げ出して一番下にくっついてる方が、かっこいいじゃないですか。そっちを選んじゃったんです。それに対して、岡はそこそこ各科目で、うまくやっていた。学校というのは、内申取るだけだったら、要領よくやっていれば何とかなったという部分があるけど、そのあたりはちゃんと点数取っていたよね。
ゲームの勝者、宴会で躓く
岡 内申の点数ね。あれね、効いたんだよ。おやじの会社が倒産した時(第5回『「体育祭」と「自己破産」と「男の子」と』参照)に、大学に奨学金の申請をしに行ったじゃない? その時に、やっぱり高校の成績が参考になるんだ。何が基準かって、高校の成績と入学試験の点数なの。それで、君は優秀だね、じゃあ奨学生ね、ということでセーフ。あれで小田嶋と一緒にひどい点取ってたら、もう(笑)。
小田嶋 じゃあ、無駄にならなかったんだ。
岡 無駄にならなかった。決して無駄にならなかった。
―― すごい。
岡 やっぱりゲームなんだよ。 中間テストも期末テストも。だから、何とかこう、少ない努力で勝つ方法を一生懸命考えてきた。それが効いた。
小田嶋 岡の、わりといろいろなものをぱっとゲーム的に解釈して楽しんじゃうという感覚って、当時の高校生としては珍しいよ。だからね、高校のクラスの中ではね、浮くのよ。あいつはねえ・・・・・・っていう感じが、すごくあったよね(笑)。
岡 それは、会社(電通)でも浮いてたよ、だから。
小田嶋 会社でも、あいつはねえっていう感じだったのか。
岡 やっぱり営業の時は、まったく適応できなかった。
小田嶋 昔、四ツ谷の飲み屋で隣り合ったやつに、電通のやつがいたの。電通ですか、電通なら岡康道というのが俺の同級生でいるんですけどって、俺が言ったら、「ああ、あの頭のいいヤツね」って(笑)。その言い方の冷たさで、あ、もしかしたら岡は会社で苦労しているんだろうか、と(笑)。
岡 それ、いつごろの話?
小田嶋 えーとね、30歳の手前ぐらいかな。
岡 実際、人間関係としてはうまく適応できなかったね。
―― 岡さんは、いかにも広告代理店に適応しそうな雰囲気ですが。
岡 クリエイティブの転局試験に受かった後からですよ、僕の会社生活がよくなったのは。ただ、クリエイティブといったって、広告というのはしょせん短い時間でしょう。15秒、30秒を面白く作り上げるというのが僕の身の丈で、小説を書いたり、映画を撮ったりするわけじゃない。だから、京都大学は突破できなかったし(笑)。
―― 京都大学は劇場映画だった、と。
岡 そうそう、長編劇場映画(笑)。だけど広告とか早稲田とかは、そうじゃないということぐらいは、分かっていましたけどね(笑)。
―― 中間試験クラス。
岡 そう、中間試験とか。だから、いくら高校時代の成績がよかったとはいったって、その程度の自分という感じはあるよね。
小田嶋 でも岡はやっぱり、やれることはやるんだよね。そこのところで、敗北の美学みたいなところにいかない。普通、高校生って安易にそこへ逃げ込むのよ。しかも、当時はそういう文化がすごく多かったでしょう。「あしたのジョー」にしても何にしても。あるいは「同棲時代」とか。
岡 そういうのもあったな。
岡青年がつかんだ、日本人の秘密
小田嶋 そうそう。「いいのさ、俺たちなんか」みたいなところ。でも、岡は勝つべき手はちゃんと打っておく。たとえ負けても、捨て石を布石ぐらいにはしておく、と、そのあたりが違う。
岡 でも何かやっぱり、世の中ってこう、自分が拍手をもって迎えられることがない、というのはあるね。クラスでも会社でも浮いていくというのは、どういうものなんだか。
小田嶋 俺が会社を辞めてぶらぶらしているころに、何かで岡と会った時にね、宴会の話をしきりにしていたよね。俺は日本人の秘密が分かったよ、って。何だ? って俺が聞いたら「宴会だよ」って。要するに、宴会に付いていけないことっていうのが、たぶんこいつが当時、突き当たっていた壁なんでしょう。
岡 まったく宴会がダメだった。80年代の最初のころの電通の営業というのは、ほぼ毎晩宴会なんだよ。
―― ホイチョイ(「気まぐれコンセプト」)で書かれているような世界ですか? 陰毛にムースを塗って火をつける、みたいな。
岡 そうそう。でも、それに対応できるふりをして入社しているし、対応できそうにも見られるし。
―― 見えますね。
岡 すごく無理すればできないことはないから、一見楽しそうに演技しちゃう。でももう、本当は、ものすごく傷付いていて。ただ、転職という文化もないでしょう、当時は。
―― そうですよね。
岡 会社を辞めるなんてあり得なかった。辞めることもできないし、行き詰まったねえ。
小田嶋 クラス対抗のリレーがあるよという時に、俺はアンカーは厭だ、2走(第2走者)なら走るよ、と言っちゃえるところが、こいつの一番のいいところだったわけです(第5回参照)。変に空気を読んで、じゃあ、俺はアンカーで頑張るよって、それでアンカーで走って、1人か2人に抜かれても、惜しかったな、という方がクラスの中では人気者になり得るわけ。でも、そっちじゃなくて、俺は2走でなきゃ嫌だ、と主張して、同時に条件闘争も行うというのがこいつなわけで(笑)。
岡 そうなんだよ。
小田嶋 一般の人は、条件を言ってくることにびっくりしちゃうわけですよ。えっ? と(笑)。
岡 でも、実際のクリエイティブというのは、わりとそういう世界だけどね。
ルールの解釈力こそ「クリエイティブ」
小田嶋 そりゃ分かるけど。走ってもいいけど条件があるって、そんな言い方、高校生がするか、普通? というのが一般的でしょう、普通は。
岡 今まで15秒のCMの最後の3秒が商品カットだったということが暗黙のルールだとしたら、待てよ、でもこれ最初に言っちゃえば、あとの12秒自由ってことか、と(笑)。あるいは、そんなに商品が大事なら、物語の中で商品名を3回言いましょう、と。3回も言うんだから、ストーリーは自由にやらせてくれみたいなこととかね。そういうことを言っても、クリエイティブの人たちは、まあしょうがないよなという目で周囲は見てくれたから、クリエイティブに移ってからは、非常に居心地はよかった。
小田嶋 クラスの中でも、俺は2走なら走るけど、という条件を出してきたりして、岡は一種浮いていたりしたけど、浮いているながらも、1つの、まあ、あいつはあいつだからっていう独自の位置でずっときていたわけですよ。でも、宴会なんていうところに行くと、もう絶対にそれはあり得ないでしょう。
岡 あり得ないですよ。
小田嶋 エゴとかない世界ですからね。
岡 ゼロだね。
小田嶋 全員が1つの人格に溶け込んでいくみたいな。
岡 しかも俺、酒飲まないからシラフじゃない? もう、とんでもないよ(笑)。つらくって、今も夢に見るぐらい。人生で一番つらかったことは何かというと、おやじが倒産して逃げたことじゃなくて、俺、あの営業の5年間だよ、明らかに。思い出したくもないもん。
クリエイティブ、ゼロ
―― 当時の電通の宴会ってどんなことをやっていたんですか。
岡 宴会? だからまず、飲んでしゃべるだけだったらいいですよね。でも、例えば料亭の場合。
―― 料亭の場合。
岡 全裸になって、オイルライターのオイルを湿らせたティッシュをおしりに刺すわけです(笑)。
―― 刺します。
岡 そして、それに火をつけるわけです。
―― 火を点けますね。
岡 火を点けると、熱いからものすごい速さで人は走るわけです。
―― 熱いから走ります。
岡 料亭の庭のこっちからあっちまで、ばーっと、こう走り抜けるわけですよ。あっちにはまた別に待機しているやつがいて、こっちに走ってくる。その芸を「ホタル」と呼ぶんです(笑)。
―― 頭、ぶっ壊れてます。
岡 頭、壊れてるでしょう。それからね、宴会の最中に、ぱっと横を見ると、何も着てないやつがいつの間にか座っている(笑)。その場合は、気付かれないように全裸にならなきゃいけない。まあ、失礼にならないように、ネクタイだけはしてろ、という(笑)。
―― クライアント側はそういうことはしないんですよね。
岡 当たり前じゃないですか。こっち側の営業の若いやつから順番にやるしかない。ということは、毎晩全裸だったみたいなヤツもいたね(笑)。
小田嶋 しかし、この大きい体でどんといると、迫力だっただろうね。
岡 そうだよ。やっぱり大きい方が面白いし、いじめたときに、みんなが楽しいでしょう。
小田嶋 その手の通過儀礼って体育会にもあるし、今のお笑いなんかでも、そうだよね。新人の芸人って、必ず恥ずかしい格好で出てくるでしょう。若い芸人が芸を見せるんじゃなくて、恥を見せるところから出発しなきゃいけないというルールがあったりしているじゃない? あれが本当、よくない影響を与えていると思いますよ。
岡 そうだよね。今はね、それはやっぱり、明らかにパワーハラスメントだから(笑)。90年代半ばぐらいから、それで本当に会社を辞めたりするやつが出てきた。こんなことされて黙ってられるか、みたいにきちんと反論する東大法学部卒のやつとかが出てきて(笑)。それで確か一応、禁止にはなってるのね、あれはもう。
小田嶋 一応は。
岡 ただ、やっぱりラグビー部出身のやつらとかは、やっぱりまだ全裸になってるらしいけど、それは自主的にということで(笑)。
―― 自主的に。
岡 自主的にという名の下で、誰にも命じられていない、脱ぎたいから脱ぐんだと(笑)。何かこうして話してると、ちょっと面白そうだけど、狂ってますよ。何も楽しくないもん。やっぱりそれは、緊張──心が誰とも通じてない集団の中で、そんなバカなことを毎晩しなくちゃいけないっていう苦しみがある。
小田嶋 それは壊れるよ。
岡 壊れるでしょう。だから、僕は宴席より業務をしてる方が楽しかった。請求書でも伝票書きでも何でも、そっちの方がよかった。
京都、酒と薔薇の日々
―― 小田嶋さんも会社勤めしていたころは、営業だったんですか。
小田嶋 でも俺はね、実質働いていないからね。
―― さらっと。
小田嶋 俺、新入社員になって、大阪に赴任して4日目に足を折ってね、入院して、4カ月休んでたんです。
岡 いきなり。
小田嶋 4カ月も本当はかからなかったんだけど。入院したのは大阪で、そこで2週間入院した後、誰も見舞いに来ないし、寂しいから、東京に転院して、そっちでもう2週間入院して、あとは大阪の下宿に戻って、そこを根城に関西観光をしてたんですよ(笑)。そうしたらそれが会社にバレて、小田嶋はいつまでたっても出社してこないけど、どうしたんだっていうことになって。会社の人が実家に電話してみたら、実家のおふくろが、あれ? もうふた月前に大阪に行っていますよって(笑)。
岡 ははは。
小田嶋 休職手当てをもらいながら、カマカミを連れて、遊んでいたんだよね。あいつがまだ大学3年生だったんだよな、3浪か何かで。
岡 カマカミ?
小田嶋 カマカミ。3浪2留か何かしてたやつ。
岡 アイツはどうしようもないな(笑)。
小田嶋 そいつと2人で、今日は神戸、あすは京都ってしていたら、バレちゃったの。それで、すみませんでした、って会社に出て、それから1カ月ぐらい出て辞めちゃったから、ほとんど何もしてない(笑)。
―― 本当に何もしてないですね。
小田嶋 最悪だったです、だから。
岡 でもお前、宴会で「君が代」を歌ったんだろう。
小田嶋 そうそう、それも最悪だった。宴会があって、新入社員は全員カラオケで歌え、みたいなこと。それはしょうがないんだけど、僕、部長が嫌いだったんですよ。部長ってキリスト教徒でね、賛美歌を歌うようなやつなんですよ。
岡 ・・・・・・。
小田嶋 部長からは賛美歌をかまされて、ほかのやつらからは「再会」とか聞かされて、お前は何だっていうことになる。じゃあ「君が代」しかないかな、と思って、「君が代」を無伴奏でやらせていただきますと言って。
思わず部長さんに同情したくなる
岡 すごいよ、それ。
小田嶋 特別な歌ですので、全員ご起立くださいって(笑)。
岡 まあ、辞めてなくてもクビだわな、それはもう(笑)。
小田嶋 そうしたら、立たないわけよ、部長が。俺もちょっと酔っぱらってるから意地になって、「1名、お願いしてもご起立されていない方がいらっしゃるんですが、ぜひお願いいたします」とからんで。それで空気がすっかり壊れて、部長が座ったままの中で、俺は「君が代」を最後まで一生懸命歌って。イヤーな空気で(笑)。
岡 俺、それ聞いた時、驚いたもん。
小田嶋 まあ、でも、辞めるつもりだったからやれた(笑)。この会社で一生やっていこうと思ったらね、やっぱり「いとしのエリー」ぐらいでね、ごまかしていたよね。

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